HOME カワハギを狙って葉山へ出かけました。 葉山御用邸の沖合には水深十数mの岩礁帯が広がる場所があり、カワハギどもの格好の棲みかとなっております。 そこはボート釣りの好ポイントでもあり、一色海岸側と長者ケ崎海岸側それぞれに貸しボート店が営業しております。 しかも今年は例年になく魚影が濃いとの情報を得て、私は自前のゴムボートで久しぶりに出漁してみました。 カワハギは高級食材、薄造りのキモ和えは絶品で、初めて食した人は感激するに違いありません。 ところで、我が家ではカワハギのキモ和えは珍しくもないもので、今晩は嗜好を変えて大型カワハギの煮付け一人に一匹、残りはコブ締め、そして小さな獲物は湯豆腐にと、私は家内に云い残して出かけたのでした。 どれもなかなか口に入らない大変美味しい贅沢料理であります。 このように捕らぬ狸の皮算用を言い残した場合、家内は必ず別のお惣菜を用意しておくのであります。 10時過ぎに着いた県立近代美術館からやや逗子寄りにある県営駐車場から眺める海は、NHK天気予報の"穏やかな波高"に背いて、うねりが入り込んでおります。 駐車場下の砂浜では、盛り上がった波が打ち寄せ、波打ち際で波頭が砕ける状況で、離岸に危険がありました。海岸線の左右をよく観察すると、柴崎寄りの波裏の磯場が穏やかで、そこから岸払いすることにいたしました。 そこの海面は穏やかな反面、操船を誤ると岩礁に衝突する恐れが大であります。ゴムボートは風があると細かい操船が難しいのです。幸い今日の穏やかな日和なら私の熟達した技量で難なく細い水路を通過することが出来、 小磯の先端からさらに大分沖合まで漕ぎ進み、ここぞと云うポイントの風上へ回り込んでアンカリングいたしました。 一色海岸と長者ケ崎海岸とを隔てている岬のように突き出た岩礁群を小磯と呼んでおります。その沖合一帯が好ポイントなのであります。 昔はポータブルの魚群探知機を装備していたのでポイント選定が容易でしたが、今は全てカン頼りです。カンとは云え、経験を積むと水色の濃淡などから海底の状況が判断できるのでありました。 裏庭の物置に放置してあったマイボート、点検などしないまま積み込み、久しぶりに収納袋から出して浜で広げてみると、クモやゲジゲジなどの虫どもがぞろぞろ這い出してきました。ヘビが出てこやしないかと心配いたしました。 おまけに底板の合板ボードが、はがれメクれておりました。いい状態とは言えませんね、 致命的な空気漏れがなければいいのですが。 アンカリングしてボートを安定させてから空気圧を調べると、案の定前室の圧が弛んでおります。釣り用ゴムボートは二気室あり、万一片方がパンクしても沈まない構造になっているのです。 海水を掛けながら耳を近づけて空気漏れのヵ所を探します。最悪引き返さなければなりません。バルブからかシューッとかなり漏れているのを発見しました。 パッキンが劣化しているのかも知れません、とにかくギュッギュッとバルブを締めあげて空気を補充し様子を見ることにしました。水を掛けると未だ多少漏れているのが分かります、時々空気を補充すれば何とか持ちそうです。 ようやく仕掛けのセットに取り掛かります。もう11時でした。 3本針の胴突き仕掛け、エサは青イソメ、こませ袋にアミを詰めて投入です。20号錘を背負った1,6m胴調子のグラスカーボン軟調竿に新素材系3号150mを巻いた中型両軸リールをセットしてあります。乗合船などの仕掛けとは大分異なります。 釣り人一人のボート釣りでは、高価なアサリを使用せずとも、青イソで充分です。イカの短冊でも間に合います。また、通常カワハギ釣りでコマセは使いませんが、一人のボート釣りでは明らかに効果があります。 第一投、ここまでが長かった。久しぶりの出船で随分手間取ったのでした。 やっと周囲を眺める余裕が生まれました。今日は山がきれいです。丹沢がクッキリと、富士山も姿を見せております。葉山の海岸線もとてもきれいです。ボート釣りの目線は、海に浮かぶカモメの目線と同じなのでした。 今日は平日ですが、貸しボートが5~6隻出ております。ウネリがあるものの今のところ微風で穏やかです。 アタリはすぐに出始め、やがて頻繁にアタリだしました。軟調な竿は敏感に反応します。断続的にグングンと引き込むもの、ビリビリと竿先を震わすもの、ズンと竿先を沈めるもの、食い上げるものなど様々です。 カワハギの棲みかは雑魚どもの棲みかでもあるのです。ベラ・ネンブツダイ・スズメダイ・キタマクラ・クサフグ・ハオコゼ・タナゴ・等々ろくでもない雑魚どもが寄ってたかってエサをつっついているのです。 アワセをくれるタイミングがなかなか難しい、10秒も放置するとアタリは無くなります、エサが食い尽くされてしまったのです。これがカワハギ釣りの特徴で、頻繁にエサ付けを行わなければならず、したがってエサの消耗が激しいのでした。 釣れるのは雑魚ばかりでどうにもペースをつかみかねておりましが、カワハギは間違いなくいます。私にはアタリ方で分かるのでした。 針はカワハギ専用の7号を使用しております。この針はフトコロが広く先端が外側に開いています。俗にいうハゲ針です。カワハギのハギがなまってハゲになったのでしょうが、私にはどうも気に入らないのでした。いえ、名前ではありません、その形状が気に入らないのでした。 私は仕掛けを変えることにいたしました。丸セイゴ針の7号です。丸セイゴは私のお気に入りで万能です。ボート釣りにピッタリの針であります。針は全て自分で結び仕掛けも自作したものです。 度の強い老眼鏡をかけて前日に制作したものです。仕掛けを変えてたちまち小気味よい引き込みにアワセ、中型のカワハギを釣り上げたのでした。 よし、これからだ!ところが貸ボート屋が船外機で迎えにき、周囲のボートを集めて曳き船し、そくさと岸に引き返すではありませんか。 天候の急変を察知した私は、しかしその直後に28cmの大物に竿をギュンギュンと絞られながら、なんとか仕留めたことが尾を引いて、未練がましく再度仕掛けを投入したのでした。 その矢先、風向きが急に変わり冷たい風が一陣吹き抜けて、一瞬間を置いて沖から大波が襲いかかってきます。アンカーを引き上げるのももどかしく、私は死に物狂いでオールを漕いだのでした。 大波の底に入ると周囲は海水の障壁となり、遠景は一切姿を消してしまいます。次いでググググとせり上がり波の頂点へボートは放り出されるのでした。まるでシーソーで弄ばれているようです。 私はオールが折れよとばかり力を入れて漕ぎました。すると、大波の頂点に至る直前で波の斜面に同調し、スベリ台のように斜面を滑り降りながら一気に前へ進むのでした。サーフィンのように爽快な気分などこれっぽっちもありません、あるのは恐怖感だけです。筋肉は悲鳴をあげています。しかし休むことはできません。 漕ぎ続けないとボートは方向を変えてしまい、横波を受けて転覆です。 小磯の波裏へ逃げ込むまで私は文字通り死に物狂いで漕ぎ続けたのでした。 朝の離岸場所への着岸など思いも及びません、貸しボートの着岸場所は堤防裏で、少々の荒波でもなんとかなると踏んだ私はそこを目指したのでした。だがそこは一色海岸の南端、駐車場まで500~600mも離れております。ボート釣りは荷が多く、少なくとも三往復しなければなりません。 一計を案じた私は、大波が打ち寄せる波打ち際にボートのトゥロープを引きながらボートを浮かせ、足もとが濡れることなど意に介さず500mも横移動していったのでした。 |