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東京湾のアジ釣り


東京湾猿島周りの金アジ(23~28cm)、赤はカサゴ


魚の王様と云えば、タイでしょうか?ヒラメでしょうか? 大間のマグロを挙げる人もいるかも知れません。
我が家ではアジであります。そうです大衆魚の代表格、アジ・イワシ・サバ・サンマ~そのアジ(鯵)であります。
我が家で云うアジは、ドロンと目が白濁したスーパーのアジとは違います。すなわち背中は青黒く輝き、側線は金色に光り、腹部は上質なパールを思わす光沢に染まり、 目玉が真っ黒で、キトキトと生きているかのような近海真アジを昔から食していたのであります。
我が家のタタキはそのアジを3枚に卸し、皮を引き腹骨を削ぎ落とした半身を何枚かみじん切りにし、おろし生姜・刻んだネギオオバそしてミソと合わせ、仕上げに包丁でタタいて造ります。 これは私の仕事です。銚子など外房で云うところのナメロウ風のアジタタキであります。これが絶品、初めて食した方は感激のあまり涙することでしょう。タタキを小さく丸めてツミレ汁、もう言葉がありません。
大きいサイズは塩焼きにします。ワタとエラを取り、ゼイゴを削いで軽く塩を振り、尾びれ背びれ胸びれには飾り塩を施します。磯の香りがほのかにし、甘みのあるとても上品な味です。
3枚に卸し皮を引き腹骨を削いだ半身をフライにします。食堂などで食べる開きのアジフライとは全然別物、あまりの旨さに一人6枚(3匹分)以上は平気でいただきます。
タタキやフライで3枚に卸した残骸の中骨は高温で唐揚げにし、骨せんべいを作ります。薄く塩を振り、ビールのつまみにたまらない逸品となります。
この他に、大船名物駅弁アジの押し寿司にちなんで、こぶりのアジ半身に飾り包丁を入れ、薄く塩を振り酢で〆ます。弱めの酢飯で鯵の握り寿司、これも旨い、でも少々手間がかかるので我が家では最近ご無沙汰しておりますがね。
一家4人でアジフルコースを味うと、中アジ20匹以上を一回でたいらげてしまいます。
大漁の際など、食べきれないアジは氷をたっぷりと追加したクーラーに保存し、翌朝開いて多めに塩を振り(多めでちょうどいいでしょう)網篭に入れて夕方まで干します。ほんとうに美味しいアジの干物の出来上がりです。
我が家では、アジはやっぱり魚の王様なのでした。
何処でそんなにいいアジを手に入れるのかですって? みんな私が釣ってきたのですよ。つい先ほどまで元気に泳いでいた東京湾根付きの金アジたちなのでした。


私の乗合船ビシ釣り仕掛け&道具。
中型片テンビンにビシ120号Mサイズ。
仕掛け;手作りハリス1.5~2.0号全長2m、ハリ~ネムリ9号チモトに蛍光緑ビーズ玉付き2本針
リール;手動中型両軸、ミチイト~テトロン6号150m
竿;ヤリイカ用、材質~グラスカーボン、負荷重100~130号1本継、全長1.4m。
私は好んで短竿を使います。強度の老眼にも扱いが楽で、最近は長竿が多い為混雑時のオマツリ防止に役立ちます。



私は概ね20cm以下のサイズを小アジ、30cm以上を大アジ、その中間を中アジと勝手に定義しております。 また10cmに満たない小さいサイズを豆アジと呼んでいます。
10年ほど前まではボート釣りのサビキ仕掛けで小アジが中アジ交じりで良く釣れたものでした。 ところが近年はボートが届く範囲からアジの姿が消えてしまいました。仕方なくアジを求めて乗合船で沖合に出ることになります。 沖合と云っても、私の住まいからは相模湾、東京湾の選択肢がありました。
当初、江の島に近い腰越漁港は自宅から30分の距離、乗合船も数多く、此処から何回か出漁したものです。
ところで、相模湾のアジ漁場は大雑把に(江の島沖)(烏帽子岩礁周り)(大磯二宮沖)の3ヵ所あり、いずれも水深100m前後の深場狙いとなります。電動リールを持たない私にはツライ水深です。
アジ釣りは、仕掛けを泳層タナ(海底付近が多い)まで降ろしてコマセを振り出しアタリを待ちます。数回この動作を繰り返すとコマセがなくなるので一旦引き揚げコマセを詰め替えます。コマセはイワシのミンチを使います。 電動リールでは、ブーーッと簡単にモーターが巻き揚げてくれますが、手動で100mを何回か巻き揚げてごらんなさい、手が痺れてきますから! いきおい誰だってコマセの詰め替え作業を手抜きします。 電動リールのお隣さんと釣果に歴然と差が出てくるのは必然のことでした。いつでもそうとなると同じ料金を払いながら面白くありません。私は自然と相模湾から足が遠のいたのでした。

何故電動リールを使わないのかって? 電動リールは邪道で、釣趣に欠けるなどとミエを切るつもりはありません。
電動リール道具仕立ての費用について少し触れておきます。
リール本体;\60,000~\80,000, ミチイト新素材系200m;\6,000, バッテリー;今時の船には電源があり必要なし
電動リール用ビシ竿;\20,000~\30,000, ロッドキーパー;\10,000
その他テンビン・アンドンビシ;\3.000、クーラー;\6,000、などなど、\100,000円では足りません。
予備が必要な物もあり、小物類も馬鹿にできないので、全て新規に購入するとなると総額\150,000円ほど出費する覚悟がいります。
それに比較し、上に示した私の道具仕立ては総額\30,000円でお釣りがきます。高価なロッドキーパーは使用せず、今ではほとんど見かけないステン制の安定板というものを用います。もちろん安価です。 短竿を好んで使用すると述べましたが、一番の理由は費用の点にあるのでした。 ところで写真のような極短竿は、品数豊富な大手釣具専門店でも手に入れることが難しくなりました。店に陳列されている竿は細く長めのカーボン高級竿ばかり、高価な品ほど利幅が大きいのでしょう。 消耗品の仕掛けについても、私はバラ100本入りの針と1.5&2.0号500m巻きナイロンハリスを安く購入し自作しています。 切り詰めて生活している我が家では、上等な食材と引き替えとは云え、生活に直結しない趣味の支出を膨らますことは許されないのでした。
私はこの見劣りする(自分としてはシンプルな、と云いたい)道具仕立てで竿頭になることが珍しいことではなかったのです。


東京湾を航行する船舶は小ボートから特大タンカーまで凄まじいものがあり、この点のんびりムードの相模湾とは大違いです。
嘗て私が乗った遊漁船(定宿の船ではありません)が手漕ぎボートを跳ね飛ばすと云う事故に出くわしたことがありました。乗っていた若いカップルは直ちに乗客が力を合わせて船に引き揚げ、浜に急報し救急車に乗せました。 我々の励ましの声も聞こえないのか、二人の被害者は終始青白い顔色で無言でした。
その後船長は再度釣り場にに走ってしまいます。 いくらなんでもまずいのではと訝っていると、保安庁からの無線で港に引き返すよう命令がありました。だがその船長は無線の電源を切ってしまいました。結局時間まで釣り続け、港へ戻ると海上保安官が数人待ち構えていて、船長は逮捕されてしまいました。 客本位のつもりだったのでしょが、私を含め大方の客はそこまでして釣りを続ける気など毛頭なかったように思いました。 後に届いた船宿からの詫び状によりますと、被害者の怪我は足の単純骨折だったようです。
ところで遊漁船の操舵室からの眺めは、進行方向真正面は死角が多く、近景の視界が大変悪いことに驚きます。特に船高の低い手漕ぎボートは波間に隠れてしまい発見できません。 このことをボートの釣り師はしっかりと理解して、漁船航路内での釣りは絶対に慎まねばならないのでした。

さて、東京湾の主な漁場は、(猿島周り)(第二海堡周り)(大津沖)(走水沖)(観音崎前)(久里浜沖)などがあります。 東京湾房総側にも漁場は多いですが、こちらは浅場のサビキ釣りが主体で、釣趣・サイズともに劣ります。また相互不可侵協定でもあるのでしょうか?お互いの漁場を行き来することはありません。
金沢八景には釣り宿が多く私も数回乗船しましたが、上記漁場まで遠く時間のロスが大きいので、今では漁場が目の前の横須賀大津漁港【いなの丸】を定宿としております。
釣り場の水深は概ね50m以内、魚の活性が低い冬場には、稀ですが走水や久里浜沖で100m前後仕掛けを降ろすことがあります。この場合、待ちの釣りとなるので、手動リールでも対応できます。
久里浜沖の漁場は本線航路に近いので、特大タンカー・コンテナ船などが頻繁に通過する東京湾口部のこと、なかなか怖いですね! 第三管区海上保安本部の巡視艇が張り付いており、本線航路に侵入した釣り船はたちまち追いやられます。 こちらがヒヤヒヤなら彼らはそれ以上にヒヤヒヤでしょうね! なお、私の定宿【いなの丸】は安全第一、本線航路付近の釣り場へは近づきません。


一荷(イッカ=一度に2匹を釣る)で得意満面、大津漁港いなの丸にて


2009年9月上旬の平日、いつもの船宿、横須賀大津漁港【第十六いなの丸】に乗り込みました。私としては珍しい午後船です。
横須賀市内のアジ乗合船は午前・午後の半日船が基本で、夜明けが早い6~8月は4時出船の早朝船を出す宿もあります。 客側から見ても漁場が近い関係で半日約4時間あれば十分釣りを楽しむことが出来、料金は一日船より大分割安で助かります。
いなの丸には他に大型の高速船【第十八いなの丸】があり、主にマダイ釣りに一日船として出船しています。それぞれの船長は兄弟で、こちらは兄のマー船長(親方猛獣),アジ船は弟の狸腹ノブさんが船長です。
私は顔見知りの船長に声をかけ、先客に挨拶し、胴ノ間に陣取りました。私が最後に乗り込んだ客でした。今日の客は片側三人づつの六人、大分余裕があります。 コマセが配られ、仕掛けのセットが終わらぬうちに出船となりました。どうも私は到着がギリギリでいけません。
【第十六いなの丸】のノブ船長、若かりし頃は反骨精神が旺盛で、猿島周りの地合いが良いとの情報に釣り船が大挙して集結すると、我が道を行くとばかり唯一船団から遠ざかり、単独で観音崎沖にイカリを降ろすヒネクレ者、時折様子を窺いに他の遊漁船が近寄ると、 掛った魚は引き揚げるな、ヒマなふりをしろ!と客に指示が飛ぶ始末。 そんなこんなで大漁と貧果とのムラが余りに大きい釣り船でした。私はそれが面白くファンになりましたが、その船長も今やベテラン、安定した釣りを楽しませてくれています。

老朽船を除きまして、一般に遊漁船の高速性能はたいしたもので、釣り場をめざして漁船同士が全速力で先を争う姿などは壮観であります。 この【第十六いなの丸】も競争心に火が点いて船長エンジンを全開するとスリル満点、波をけたてて飛沫が後方へすっ飛んでいきます。
でも今日は出港してエンジンスローのまま10分で釣り場です。漁場へ向かう船上の一時は至福の時間ですが、それを味わう間もなく、何回か潮回りして投錨となりました。
投錨と聞いて何の不思議も湧かないでしょう。ところが東京湾のアジ船はイカリを降ろさないことが普通です。 スパンカー(船の後部に揚げる小さな帆~船を風向きに立てる役目)を立て、エンジンスローのままクラッチを入れたり切ったり後進したり、細かく操船するのです。 この方法、【流し釣】は私に云わせると実に釣りにくい。仕掛けがしょっちゅう前後左右に大きく流され、オマツリが増えるからです。セオリーに反しノブ船長はだいたい投錨いたします。私が【第十六いなの丸】を選ぶ理由の一つです。
ところでノブ船長、イカリを降ろすのはどうやら客の為だけではなさそうです。型が出るのを見届けると、船長いつものお昼寝タイムになるのでした。常時操船する【流し釣】では寝るわけにいきませんからね。
エサを付け、コマセをたっぷりビシに詰めて第一投、水深30m。付けエサの定番、赤タンは最近のアジは見向きもしません。今やアオイソ(イソメ系)がエサの定番になり替わりました。アジの嗜好は年々贅沢になっているのでした。
2投、3投、全く反応がありません。不安が湧きあがります

船中6人もいれば喰い気のある群れに3投もするとコマセに反応したアジは狂喜乱舞し、誰かしらのエサに喰いつき顔をみせるものなのです。皆黙々とコマセを振りますが、船内は徐々に活気が薄れて沈滞ムードが漂ってまいりました。 平日船に乗るおじさんたちはベテラン揃い、魚探に反応が出ていても、ダメな時は何をしてもダメと云う事を皆良く承知しております。こういう場合、辛抱して地合いを待つか場所替えしかないのでした。
私は景色を楽しみます。余裕が出たからではありません、暇だからです。横須賀市街が一望、その上に大楠山のアンテナ群が聳えています。湾中心部には房総半島を背景に大型船が頻りに行き交います。なかなかいい景色、もっとも相模湾にはかなわないようです。
船中最初の一匹が顔を出したのは1時間後に場所替えした直後でした。私の竿先はそれからなお30分沈黙し、ようやくかすかな震えを見逃さずに巻き上げると中アジが付いておりました。
この日は低調が続き、沖あがりまで1時間を切った16:00までに私は2匹、お隣さんが4匹という情けなさ、最後の場所替えとなりました。

午後船には16:00のクライマックスと云うジンクスがあります。この日も少し遅れて突然やってきました。船中バタバタバタと揚がり出しました。私も夢中になってコマセを振ります。 ところが私の竿先だけピクリともしません。一投・二投・三投、むきになってコマセを振りました。隣も隣の隣も入れ食いで数を伸ばしていきます。私は疑心暗鬼に陥りました。見かねた船長が備え付けの仕掛けを私に差し出し交換するようアドバイスしたのです。 私が用意したものは2号ハリス、こちらは1.5号の細仕掛けなのでした。仕掛け交換が終わり再投入、とたんにアタリ巻き上げる。貴重な1匹を船べりまで揚げた時、無情にもバレてしまいます。隣はダブルで釣り上げています。どんどん時間が経過する。 私は焦りに焦りました。気を取り直して再投入。仕掛けがピチッと跳ねる。3本針の1本が船べりに引っ掛かっていたのを見逃してそのままビシを投入したのでした。仕掛け交換の時間がありません、針2本を失い1本針となった仕掛けで私は何とか数匹追加し終了となったのでした。

自宅に戻りインターネットで本日の釣果を確認すると、早くも掲載されていて、午後アジは8~18匹とあります。数字は正確で裾の8匹は自分でありました。
嘗て成績上位の常連だった私ですが、スランプはいよいよ深みにハマったようです。
その日の我が家の夕食は、アジのタタキとブタの生姜焼きと云うチグハグなものとなりました。


2009/09/30掲載

no.6 熱海大堤防へ , no.5 東京湾のアジ釣り , no.4 葉山沖カワハギ釣りへ