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鬼怒沼湿原2



宿に着くとsigeさん宛にメッセージが届いておりまして、自宅に連絡下さいとのことです。道中の山間では携帯が通じにくかったのでしょう。 sigeさん、およそ察しながら奥様に連絡すると案の定“会社から電話があり、昨夜の風雨で現場に被害が出たので連絡してください”とのことのようでした。
我々の心配をよそにsigeさん動じる気配を見せません。 第三者への被害や二次災害の恐れがないことを確認すると“現場で対処できないなら崩壊箇所にバリケードをしっかりして、あとはホットキなさい、明後日様子を見に行って対策を講じるから”と、電話で指示しておりました。
「それぞれ現場には責任者がいるんだから、まったく何してるんだろうね」随分強気な発言ですが、もっとものような気もいたしました。当時のsigeさんは中堅土木工事専門会社の幹部で複数の現場を統括する立場です。 何はともあれsigeさんの落ち着いた態度に我々も一安心したものでした。


我々が一番心配していた現地の天候は台風一過の青空とはいかないものの、風が弱く穏やかな日和でああります。ハイキングの実行は規定の如く特段協議もせずに各自が支度に取りかかりました。
事前に頼んでおいた弁当を受け取り、宿に余分な荷を預け身軽になって出発しました。出発時刻は10:30、遅れた原因は自分たちにあるので仕方ありません。
ところで、奥鬼怒温泉郷には鬼怒川の源流に沿って3軒の宿があります。我々の宿泊先「八丁の湯」が最下流で、順次上流に向かい「加仁湯」、「日光沢温泉」が間隔をあけて建っています。 最上流の日光沢温泉は古い木造建築で唯一山奥の秘湯の風情をかもし出しております。一方加仁湯にいたっては、山奥の秘湯というより近代的高級旅館の趣を感じました。
下流側の八丁の湯から歩き始めますと、これらの旅館の敷地を通過し、日光沢温泉の渡り廊下を潜り抜けて鬼怒沼湿原登山口へと向かうことになります。


金精峠方面への分岐を左に見送り、橋を渡ると登山口で、渓流沿いの山道となります。丸沼方面への吊り橋分岐点を右折すると渓流筋から離れいよいよ勾配が増してきました。 少し高度が上がるとガスが巻いてきましたがそれも大したことなく、オロオソロシの滝展望台あたりから標高が上がるにつれてガスが薄らぎ、その後青空も望めました。
ガイドブックでは、展望台前後は急勾配が続くとありましたが、オーバーな表現で実際はさほどでもありません。 また、勾配が緩やかになると直に湿原に到着するかのようにも記されていますが、逆にこちらの記述は甘く、勾配が緩んでから湿原到着までは結構長いです。
オロオソロシの滝は、展望台から遠いので特段恐ろしくも感じられないことでしょう。山腹に垂れ下がる細い糸のようで、オロオソロシと云うよりはミロミスボラシの滝とでも名付けたいくらいです。もっとも何か伝説でもあるのでしょうか。


この日は展望台から上の登山道は沢と化していて、間断なく水流が迸っておりました。台風による豪雨が凄まじかったことを物語っているようです。 私は皮革製の重登山靴を履いていましたので、その抜群の防水性能によりまして靴の内部は下山時まで乾燥したままでした。 ところが他の4人は布製の軽トレッキングシューズで靴の内部はビショビショでした。下山後に靴を脱いでその差を比較し、登山靴の威力を皆が再評価したようでした。
ところがその後私は、革製登山靴の重さに耐えかねて、その靴を息子に譲ってしまいます。


今回はどうしたことでしょうか、KJさんがやけに元気です。KJさん、普段は真っ先に音を上げる弱足の代表であります。それがリズムよく登り続け、あろうことかライバルのAKIOさんを煽り始めました。
これぁ危険だぞ!あとが怖い。
KJさん、始め飛ばすとその反動で後半のダメージが大きいことを経験則として皆承知しております。幹事と私とでたしなめましたが、かえって反発し、益々スピードを上げるのでした。 つまり、始末に負えない状況です。ほっとくしかありませんでした。
そのKJさん、“ゥワー”と喚声をあげます。
ダケカンバの樹林帯から真っ先に湿原へ飛び出したのでした。


鬼怒沼湿原は尾瀬ヶ原ほど開けてはいませんが標高2000mを超えているので、それだけ空気に高原の味がいたします。 尾瀬ヶ原へは鳩待峠から下りますが、こちらは長く苦しい上りを経て到着するので、余計に感動を覚えるのでした。
残念ながら当日の遠景は雲に邪魔され、期待していた白根山や燧ケ岳は見ることができませんでしたが、かえって薄らと靄る沼と湿原は神秘さが醸し出されてとてもいい雰囲気でありました。
木道は1レーンだけ設置されていて、所々に待避場所があり、そこで散策者がすれ違う。尾瀬のような人出ならたちまち大渋滞となるに違いありません。
当日は紅葉シーズンたけなわにかかわらず台風の影響か、静けさが保てる程度の人出でした。多くの登山者はクマ避けの鳴子をぶら下げていて、カランカランと静けさの中に鳴り響いておりました。
湿原の草紅葉は終盤、樹林の紅葉は上部が見頃を迎え、標高1400mの宿周辺は色づき始めた頃合いでした。


夕食は大広間で宿泊客全員が揃って取ります。中高年のハイカーが多いのかと思いきや、若者も多く、若い女性だけのグループも見受けられました。聞くところによると湿原へ登るハイカーは少数派のようで、温泉目当ての客が多いようでした。
たいしたオカズもなく食事がすんだ客はサッサッと引き上げるので、我々も部屋で飲み直すことにいたします。途中一息入れて露天風呂で思惑通りの目の保養、そして真っ暗闇の外で大ハシャギ。
部屋に戻り再度飲み直します。普段から仲がいいのか悪いのか、AKIOさんとKOさんがケンカを始めました。だんだんエスカレートするようです。訳のわからぬことで言い争っております。他の者は止めるでもなく寝てしまいました。

永遠なる酔眼どもは、我が永遠なるともがきである




八丁の湯

 

【日光国立公園・奥鬼怒温泉郷にあり、ひときわ静けさの漂う豊かな山々に、懐かれた秘湯です。
8個所の源泉から湧き出している、たっぷりのお湯は身体の芯からあたため、ほぐしてくれます。
四季折々の自然の織りなす景色や滝から落ちる流れを眺めながらの入浴は、私達を別世界にいざなってくれます。】


以上は宿のうたい文句。まんざら大袈裟な表現でもなさそうです。
主体の露天風呂は有名な滝見の湯を含め4ケ所あり、うち1ケ所のみが女性専用であとは混浴である。
意外と平気な女性が多いようだ。
我々はログハウスに泊まった。解放的で広くてよろしい。だが値段は少々高め。
食事は期待できない。
 TEL 0288-96-0306
      
2009/01/27 記

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