いたち川散策 3


いたち川散策路晩秋の夜明け


天神橋から尾月橋へ
天神橋は、近年拡幅のために橋の架け替えが行われ、昭和初期に建設された当時の石造高欄は道路脇に保存されている。
橋には鎌倉街道と原宿六浦線が合流している4車線区間が通じていて激しい交通量、横断用信号は左岸側(右側)にあり、所定の場所以外での横断は危険である。
天神橋より上流は洗井沢からの流入がなくなる分、流量が減り川幅も狭まる。周囲には小さな丘陵緑地が現れて、中流域の趣が濃くなってくる。
上耕地橋には、7月に入ると橋を横断して七夕の立派な飾りつけが施され、また次の小長谷橋までの間にも手作りの竹飾りが何本も立てられる。
その先しばらくは桂橋、本郷橋、日東橋と短い間隔で橋が架設されている。 対岸には本郷小学校があり、その外れにある日東橋を渡り、さらに県道を横断した先に盛り上がる小高い山は横浜市の本郷ふじやま公園で、 9ヘクタールの広い面積を持ち、公園内には弓道場・古民家があって、手作り体験や季節の行事などが開催されている。公園内の竹林・くぬぎ・杉林などには散策路が通じ、適当なアップダウンがあって展望地もあり、いたち川散策路恰好の寄り道場所となっている。

遊歩道は一旦途切れ車道を少し歩いて、扇橋と名付けられた赤いタイコ橋を渡り中州に入る。広い中州全体が親水公園となっていて、平日には園児たちの野外活動や、未就学児を連れた親子グループがお弁当を広げている姿を見かける、伸び伸びとした場所である。
中州の端では矢沢堀が合流している。この支流は細流だが、合流点が急流のためにジグザグに急流を緩衝させる仕切りが設けられ、流れ全体が魚道となるような仕組が施されている。
民家脇で小橋を渡り中州から出て、川筋から少し離れた里山の小道を行く。 この僅かな区間は現存されている貴重な鎌倉道古道のようで、頼朝の建立とされる(言登)菩提寺正門(ショウボダイジ、言登はこれで本来一文字、環境依存文字の為あえて使用せず)に至ることから間違いないと思われる。
頼朝は、平家の多勢に押され苦戦を強いられた1180年の石橋山(小田原市)の合戦の際、佐那田与一という若武者が平家軍の前に立ちはだかり自分が身代わりとなって、頼朝を上総(千葉県)に逃がしたと云われる。 後に頼朝が鎌倉に幕府を開くと、佐那田与一の供養のためにこの(言登)菩提寺を建立したのである。
諸国から鎌倉に入るには、今の北鎌倉から円覚寺・建長寺を経て至るルートが表街道で、それらの大寺院は幕府を守る要塞の役割を負っていた。
(言登)菩提寺は表向き鎌倉幕府の鬼門にあたる場所に建立されたと云われるが、 実際には鎌倉道と呼ばれる山越え裏道ルートにおける要塞としての役割が大きかったようだ。この裏道は現在の相武隧道上部の尾根から天園に通じ、永福時(ヨウフクジ)・瑞泉寺・覚園寺・建長寺半増坊などの寺社を経て幕府中心部に達したと思われる。
裏道とは云え、今のハイキングコースに当たるこの道は相当な往来があったと推察され、(言登)菩提寺の置かれた役割は軽いものではなく、当時は1キロ平方メートルもの広大な敷地を擁していた。
それも今では嘗ての面影はなく、こじんまりとした敷地に、重要文化財に指定されている【阿弥陀三尊像】や【阿弥陀如来像】などが収蔵庫に保存されている。また境内は桜が見事である。

 
散策コース最後の石原橋        葉月橋手前のユキヤナギ


(言登)菩提寺から再びいたち川沿いの散策路に戻る。青葉橋の下流は中州で、稲荷森の水辺と名付けられた親水公園となっている。
次の葉月橋は歩行者専用で、エキスパンドメタルと呼ばれる格子状のメタルデッキが路盤となっていて、川面を上から覗きながら対岸(右岸)に渡ることにする。
この辺りの川辺には、5月に黄菖蒲の群生が見られる場所である。
尾月橋の手前は広場で四季折々の花が絶えない場所。また川辺にはカワセミの巣があるようで、望遠レンズでシャッターチャンスを狙う愛好家をよく見かける。
尾月橋を渡った先の土手には春~初夏にかけてにキンケイギクの群生が見られるが、これも地元民の汗によるものである。註 2012年現在キンケイギクは姿を消し、つつじの若木が植えられている。
ここで引き返す場合は、山手学院入口バス停留所まで目と鼻の先の距離。
尾月橋を渡り少し足を延ばせば住宅街の奥に上郷市民の森があり、富士山や丹沢の展望地・椿の林などがあるので20分ほど追加散策し、石原橋を渡って環状4号線に出ると本郷車庫前バス停がある。
なお2010/3月現在、上郷市民の森から紅葉橋方面へ下る道は、地主の意向で通行が禁止されている。
本郷車庫前バス停からは、大船行き・港南台行き、逆方向は金沢八景行きが頻繁に運行されている。

2010年3月記

前ページへ戻る  HOME

no.8 厚木の里山(巡礼峠)へ , no.6 いたち川散策 no.5 まむし へ