HOME
湯の沢峠 2


お花畑と大蔵高丸夕景


昼食は木陰の多いハマイバ丸の園地で取ることにして大蔵高丸を後にした。
この先は疎林の広い尾根で高原散歩のような清々しさである。 アップダウンも少なく快適に飛ばせる区間だが急ぐ必要もないのでのんびり進むと、前方からクマ除けの鈴音がしてデカザックを背負ったいかつい山男が3人現れた。 もう昼過ぎだ。今夜はこの肉食系かつ体育会系一団と避難小屋で一緒になると覚悟したが、幸い再び会うことはなかった。大菩薩周辺の小屋まで足を延ばしたのだろう、山男たちのタフさにはいつも舌を巻く。
山上のプロムナードは30分で終了し、ハマイバ丸山頂1752mに着いた。樹林の中の変哲もない山頂である。破魔射場丸と記す。魔除け矢の弓射場だったのだろうか?
山頂を通過し2~3分下るとハマイバ丸の園地がある。正面に富士山が聳え、露岩と樹木の配置が絶妙で、天然の庭園である。 私が以前に訪れた時季はツツジの最盛期で、背景の富士山には雪が被り、庭の隅々までミツバツツジの赤紫に彩られてそれは美しい庭園だった。
ここで弁当を広げ、冷えたビールを飲む。夢ごこちの一時。

駐車地に戻ったのが3時半、陽はまだ高い。車はセダンの1台が残っていた。
小屋へ荷物を運ぶのは後にして、ビール・酒・を冷やすために沢に降りた。小屋の裏手を2~3分降りたところに源流で冷たく美味しい水が流れている。 沢へ登降するのが面倒な向きには林道を5分下ると流れは細いが水場がある。やはり源流の水で冷たく美味しい。
酒類を冷水に漬けて駐車地に戻ると、最後の車の主2人が帰り支度をしていた。私が小屋に泊まることを告げると大いに羨やみ、次回は避難小屋で泊まろう、と早速話し合っていた。
今夜の小屋は一人の気配が濃厚となった。寝袋や食料品などを小屋に運ぶ。50Lザックに詰めて1回で運び終わってしまった。もっとも、何回かに分けて運んでも数十歩の距離で大したことはない。
小屋はログハウス風だが、掘立小屋とも云える。5坪ほどの広さで、出入り口が土間、カギ型に土間を囲むように板の間あり、6人までなら重ならずに寝れる容量である。
3~4組ほど古布団の用意があってありがたい。引き戸の硝子の割れ目を押さえるテープが痛々しい。
この小屋は、駐車場が近い・水場が近い・トイレが近い、そのうえ電気が使えるのだ。蛍光灯が点く。この便利さ故に常連客が結構多い。隠し棚があって、コンロや炊事用品が置いてある場所を私は知っている。
大菩薩から滝子山方面へ縦走する場合1日では無理で、テントで野営するか、この湯の沢峠避難小屋を利用するしかないのだった。

小屋の中での宴会は息苦しい、小屋の周囲は狭くて乱雑で気乗りがしない。座るのに都合のよい転石を駐車地の端で見つけたので、其処をお一人様宴会場に決めた。
冷えた日本酒は5合,カンビール350cc、そして酒のお供はオデン・魚肉ソーセージ・バターピーナツ・野沢菜。食事はカップメンを後ほど小屋の中で頂くことにした。
陽はようやく傾いてきた。大自然に囲まれて一人至福の一時。
夕暮れ時となって、宴会場を片づけてお花畑へ向かった。
山の表情は夜明けと日暮れ時が最も豊かだ。見逃すわけにはいかない。
太陽はダイダイ色に膨らんで奥秩父の山へ落ちていく。期待外れだったお花畑が輝いてきた。草原のススキが斜光に煌めく。やがて周囲の山々がモノトーンに変わっていく。素晴らしい!!一人占め!!
暗闇が訪れる前に小屋に戻り、食事後もチビチビと飲むうちに寝てしまった。

4時に目覚め、外へ出た。昨晩は一面の星だったが今朝は数える程度、雲の切れ目から覗くだけのようだ。
5時15分前後が日の出と踏んで5時前には山頂に到着していたいので、カメラと貴重品をポシェットに入れ、ライトを点けて急ぎ出発した。
一旦峠を越して大月側の様子を見る。富士吉田(富士山市)へ至る道筋だろう、細長く明りが瞬いている。振りかえると大蔵高丸は山腹から上にガスが纏わりついていた。
ガスは一瞬切れることがよくあるのでとにかく山頂へ出てみよう、体が目覚める前の早足登山は堪えて息があがってしまった。
夜明けの空は東の地平線が朱色に染まり、日の出の場所が一点一段と赤く染まってくるのだが、山頂のガスは濃く白い闇で日の出場所も何も分からない。 朝焼けの富士山どころかその居場所さえ分からない。この山頂に居る意味がない。 急遽花畑まで引き返すことにし、ライトなしでも見分けられるまでに明るくなった山道を駆け降りてしまった。
道志丹沢の方向から顔を出すと予想していた太陽は、意外に意外、北側の黒岳の斜面から上がった。
今回の山旅は終わった。山は期待以上の表情を見せる時もあれば、姿を見せない時もある。今回は1勝1敗、充分だ。久しぶりに山にたっぷり身を置けただけで充分幸せだった。

2011.09.21 記

前ページへ戻る

索引へ 、 登山歴へ