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しみじみと 滝 子 山 1620m 2003.10.27



錦秋の山腹



コース;笹子駅~道証地蔵~ズミ沢~祠~山頂~檜平~初狩駅
所要時間;7時間15分


 甲州武州の国境を遮るように連なる山々、昔は笹子峠あるいは大菩薩峠で越えた難所であったが、今では笹子トンネルで道路、鉄道ともに、難なく抜けることができ、そのために人々はこの山並みの壮大さに気付くことがなくなってしまった。
この大菩薩から笹子に連なる山並みを、小金沢南大菩薩連嶺といい、その南端に独立峰のごとく大きく聳えるのが滝子山である。
今回はこれらの壮大な山並みに改めて思いを馳せ、錦秋の深山を味わうべく、私と同世代であるOH氏と誘い合わせての山旅である。笹子から山頂を目指し、初狩へ下る周回コースで計画した。
 会社勤めも50代半ばになると、一層の重責を担うごく一握りの者を除き、大方は中枢ラインの仕事からはずれ、おのずと今までとは違った生き方を求められ、特に会社一筋に生きてきた者にとっては寂しささえ感じる年頃である。我々もその曲がり角の年代になったが、2人ともに、さしたる抵抗もなくその事実を受け入れていた。
そんな状況をかみしめながらの登山は、若い頃とは違ったしみじみとした味が感ぜられ、そしてこの錦秋の滝子山は、たそがれた2人が歩くにふさわしい哀愁の山であった。

当日の山梨県の天気予報は晴、しかし笹子の山々を境に、その手前とトンネルを抜けた向こう側では天候がまるで異なることがよくある。この日も笹子駅からみた大月側は雲が多く、反対の甲府側は明るく青空がのぞいていた。山梨県の天気予報は甲府盆地の天気を指す。滝子山山頂は雲に隠れていた。
風もなく穏やかで温かい、雨の心配はなさそうな日和である。山頂の雲が切れることを願いながら桜森公園の登山口に向かった。笹子駅に8時少し前に着いた甲府行き普通列車から降りた登山客は、平日ということもあり、我々2人だけであった。

 公園で身支度を整え、8:45出発。南稜への分岐を見送り、道証地蔵と呼ばれる風化した小さな石像脇で林道から分岐した登山道を一旦下り、大鹿沢本流を丸太橋で渡り、植林帯を僅か登ると、道は支流のズミ沢に沿った広葉樹の中の比較的緩やかな登りとなる。
この沢は、奥秩父の西沢渓谷を思い起こすような美しい流れで、色付き始めている樹林、そして西沢渓谷に比べて勾配がきついので、段差のある滝や急流を随所に見ることができ、実際の流れ以上に水量豊かに感じられ、実に見栄えのする渓流である。
登るにつれて樹林の色付きが一段と濃くなり、標高1000mに達する頃には見事な紅葉の幽谷となった。
水量は一向に衰える気配がない。道は落ち葉に覆われ人手を感じさせない自然の踏み跡の気配である。
流れは標高1400mほどの稜線付近まで続き、辺りは黄葉した唐松林に変わる。移り変わる美しい景観が、長い登りの連続で疲れてきた身体を大いに励ましてくれた。
我々は会話と景色を楽しみながら一歩一歩ゆっくりと登っていったのであった。

ズミ沢源流

 大谷ケ丸方面からの縦走路と合流し、小さな祠を過ぎ、右に僅か急登するとようやく山頂である。
山頂着11:50。山頂は狭いが、先客は一組の熟年夫婦のみで、くつろぐことができた。我々の登頂と同時にガスが晴れたとのことであった。しかし富士山方向の南側は遠望がきかない。
北側の雁ケ腹摺山、小金沢連嶺の眺めは素晴らしいものであった。山の中腹の紅葉が日に照らされた瞬間、輝いて見える。
山頂でOH氏が作ってくれた味噌汁が相変わらず美味い。1時間ほど山頂で休憩した。その間、登頂者は南稜から来た単独男性だけで、このコースは相当にハードとのことである。
 下山道は往路に比べると単調のような気がしたが、後半は往路同様沢沿いの美しい道であった。
が、もはや景色を楽しむ余裕はなく、揚がらない足を無理やりに前に運び、転ばぬようにバランスを取るのに精一杯で、予定した15:38初狩発の列車に何とか間に合った。

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