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塩水橋から塔ノ岳・丹沢山周回  1567m  2006/3/8



主尾根標高1500m付近の竜ケ馬場(リュウガバンバ)を望む


コース&タイム
ヤビツ宮ケ瀬林道塩水橋6:30~本谷川吊橋6:55~7:40札掛分岐7:50~9:00長尾尾根1200m付近9:15
~新大日9:50~10:30塔ノ岳10:45~11:25竜ケ馬場11:35~12:00丹沢山12:30~堂平分岐13:00
~13:50天王寺尾根ブナ林休憩地14:00~本谷川登山口14:50~15:15塩水橋
所要時間;8:45
歩行時間;7:15


この日3月8日は、4月中旬なみのポカポカ陽気になることをTV局お抱えのタレント的気象予報士が前日から断言していたので、ねらいをすませての行動である。普段は彼らの予報はあまり信用しないのだが、その日は各局ご自慢の気象予報士がこぞって明日の好天を約束したので、アテにしよう。
地図を眺めながらあれこれ考えた末に、グシャグシャの登山道が想定されるメインルートを避けて、今回のマイナールートを辿る事にした。長尾尾根は私にとって初めてのルートである。
行程が長くなり高低差も1100mを超える上、残雪の具合など不安材料もあるので早朝から行動を開始することにした。

シマッタ!地図を忘れた。出発して10分経過していた。通い慣れた丹沢だ、このまま行ってしまえ!
マテマテすぐに思い直し引き返した。初めての場所もある、安易な妥協は事故の元だ。20分ほどロスしたが未だ黎明だ。
宮ケ瀬ダム湖にさしかかる。湖水を跨ぐ橋が数箇所ある。それぞれの橋上に早朝からリール竿で釣り糸を垂れている人々がいた。停車して様子を窺うと、バケツに数拾匹の小さなワカサギが泳いでいた。 曇天の日は日中でも釣れるが、晴天の日は早朝が勝負とのことである。見る間に数匹を釣り上げ、なかなか楽しそうであった。
こうして時間をロスしながらも思いのほか順調に走り、結局予定した時間に塩水橋に到着した。

中津川水系の支流、塩水川と本谷川合流点直下に架かる塩水橋(シオミズバシ)は標高およそ450m地点、周辺には15台程度の駐車スペースがあり、渓流釣師やマイナールートを好む登山者の隠れ拠点である。私も堂平のブナ林散策、シロヤシオの花見の時期などに数回訪れている。 また、丹沢山登頂の最短コースの基点でもある。既に数台駐車していたが、どれも釣客のようだ。
漁協関係者だろうか、軽トラに待機していた男から、
「登山ですか、今日はいいですね、気をつけて」と、声を掛けられた。おそらく釣り客に対しては入漁券の提示を求めるのだろう。そう云えば解禁になってからまだ日が浅い。無銭遊漁を断固許すまじき、との気迫が男から発せられていた。
ゲートを潜り、緩やかに車道を登る。すぐに新しく架設された橋で本谷川を渡り塩水川に沿って辿る林道が右に分岐する。これは堂平へ向かう道である。本日は本谷川右岸に沿って直進する。
やがて道は左岸に渡り、塩水橋から20分強で本谷川を跨ぐ吊橋に出る。その少し手前右に天王寺尾根経由で丹沢山へ至る登山口がある。マイナールートとはいえ、しっかりした標識がある。そこは本日の下山場所だ。
林道歩きは準備運動として適当だが、落石が多いので油断はできない。時々崖の上方を見上げながら歩いた。

吊橋を渡ると山道となる。斜面は急だが道は山腹を巻くように切られているので楽である。踏み跡は薄いが迷う所はない。30分ほど高度を稼ぐと鳥居杉雨量計測所への分岐があり、その先は歩き易いしっかりとした道に変わる。 その後、札掛からの長尾尾根本ルートとの合流点で小休止した。
この辺りはシカが多い。キューンキューンとあちらこちらで鳴き声が聞こえ、姿も数回目撃した。
長尾尾根はその名の通り長い長い登りだが、緩急交互に傾斜が現れるので案外楽である。
幅の広いたおやかな尾根は、中腹までは手入れの行き届いたスギ・ヒノキの植林帯で、その上はブナが多い天然樹林帯となり、実に好ましい雰囲気である。
しっかりした道で要所には標識があり、鹿柵を越える場所さえ注意すれば不安なく歩くことができる。登山者が少ない分荒れていないので、快適である。途中建造物が全くないのも山歩きに相応しい。 樹林の葉が落ちている今の時期は左に大山~三の塔、右に丹沢山~天王寺尾根の稜線、その奥に三峰山が垣間見えるのがうれしい。
途中の平坦地で、ブナの古木に囲まれてゆっくりコーヒーを飲んだ。
新大日への詰めは苦しい登りだが、それも僅かで終わった。


塔ノ岳山頂からの眺望


新大日で表尾根縦走路と合流し、この先塔ノ岳までお馴染みの道だ。たちまち数人の登山者と行き違う。
案の定足元はドロドロである。この辺りで休憩する気のない私は、先を急いでいたのだが、くやしいことに年配の単独女性に追い抜かれてしまった。
塔ノ岳は相変わらずの人気で、平日でも10人位休息していた。先ほど私を追い抜いていった女性は小屋の中のようだ。
私はこの山頂を10回ほど踏んでいるので最初の頃の感激は薄れたが、何回来ても素晴らしい景色に変わりはない。
最も10回程度では自慢できる回数ではない、100回を超える常連さんも多いのだ。
ここも長居せずに出立した。これから丹沢山までが本日のハイライトだからである。竜ケ馬場でゆっくりしたかった。
塔ノ岳~丹沢山間は丹沢山塊のなかでは屈指の明るく開けた稜線で、私はゆっくり展望を楽しみながら稜線歩きを満喫するつもりだった。
だが、この間の道が悪かった。丹沢山への主脈縦走路は塔ノ岳から一旦下る。そこは北斜面で残雪があり、腐った雪で足場が取れない。アイスシャーベットで覆われた急階段を下る按配だ。その上所々にアイスバーンがあり、油断していると直ぐに足を滑らせる。
結局、日高(ヒッタカ)を通過し竜ケ馬場の登りになるまで恐々としながら進んだので景色を楽しむ余裕がなくなり、大分時間を喰ってしまった。
持参したスパイクも役立ちそうにない。こういう残雪は始末が悪いのだった。


丹沢山山頂は眺望には恵まれないが、広く開放的で落ち着く場所である。塔ノ岳山頂のような殺伐さがない。休憩用腰掛テーブルが数脚設置されている。新装されたみやま山荘は人の気配がなくひっそりと佇んでいた。
山頂には、私の他に年配の単独男性が二人居ただけだった。一人は直ぐに蛭ケ岳方向へ発っていった。残った私と年配者は、本日の経路・出発地などをお互いに交換しあった。
その方は水戸にお住まいとのことなので、私が茨城県の奥久慈男体山へ行ったことを話すと大いに喜んでくれた。
水戸のご老公様は私のことを健脚であると褒めてくれた。
ところでご老公様は、古希(70)を過ぎてからも北アの裏銀座縦走であるとか、西穂高であるとか、唐松岳から不帰ノ剣を経て白馬への縦走などを果たしたと云う。
ご老公様は現在74歳とのことで、昨日は一人で運転して大倉に駐車し、鍋割山荘に泊まった由。
山荘の主、草野さんとは旧知の間柄の様子だった。その日は生憎山荘の主は老体の客一人を残して下山してしまったようだ。少し寂しさを覚えたのだろうか、ご老公様は本日塔ノ岳の尊仏山荘に泊まり、もう一日山でゆっくり過ごすと云う。そして、
「すっかり衰えてしまいました、丹沢山が限界です」と、嘆くのだった。
私も丹沢山が限界なのだ(**)!
ご老公様とお別れの時が来た。ご老公様は山頂に残り私を見送ってくれた。
水戸のご老公様、いつまでもお元気で山旅を楽しんでください。

下山道は主脈縦走路と別れ宮ケ瀬方向へ向かう。直ぐに山頂は視界から消えてしまった。たちまち残雪が覆う、だがこちらの雪は腐りきっていないので比較的歩き易い。すぐに天王寺尾根への分岐となる。標識がある。
木道を下る。この辺り一帯はバイケイソウに覆われる場所だが、今はまだ雪が一面積もっている。木道が終わると雪も徐々に消えた。ガレたヤセ尾根を通過し、堂平への分岐を過ぎるといよいよ天王寺尾根の神秘的長い道程が始まる。
私は天王寺尾根を下るのは今回が3度目なので特段不安をもたないが、慣れない単独行のハイカーは不安を覚えるかも知れない。
登山者が入らないので消え入りそうな踏み跡が続き、周囲は天然樹林で、常緑広葉樹が多いので視界が利かない。そのために一旦道をはずすと方向を失いやすいのである。
道自体は危険箇所もなく緩斜面なので、尾根筋を外さすぬよう辿れば問題ない。むしろケモノ道を辿るかのような楽しさがある。
神秘的な天王寺尾根も、中腹からは植栽保護用ネットが随所に設置され、ハッキリとした道となる。
ブナの古木群を過ぎ、塩水橋まで60分の標識を見て、それからが長いのだ。景色は植林帯に変わり、鹿除けの柵が現れる。ひたすら疲れた足を前に出す。足がますます重くなる。私の下山時のいつものパターンだ、どうと云う事もない。
本谷川沿いの林道を下って行くと、疲れ切った様子で歩く二人の中年釣師に追いついた。
戦果を尋ねたところ、
「何もない!」ブッキラボウな答えが返ってきたのだった。          2006.03.14 記

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