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新緑の三国山稜~湯船山縦走 2006/05/31



この山域に数多く設置されているユニークな道標



コース&タイム
御殿場駅(富士急バス)8:10=篭坂峠8:55~9:30アザミ平9:35~10:10大洞山(最高点1384m) 10:20~
11:05三国山1320m 11:15~11:55明神峠900m 12:10~12:50湯船山1042m 13:05~13:50峰坂峠14:00~
14:20樹下の二人14:35~14:40世附峠14:45~15:25不老滝15:30~山口橋15:50~16:55駿河小山駅
所要時間;8時間
歩行時間;6時間半


富士山と丹沢山塊西端との接合部になだらかな稜線を引く三国山稜、その北端の三国峠から北東へ西丹沢への主尾根が続き、西側はなだらかに山中湖へ高度を下げていく。 南端の篭坂峠の南西側は既に富士山腹の一角であり、自衛隊が使用している立ち入り禁止区域となる。
三国山の東、明神峠から不老山を経て河内川へ落ちる枝尾根が派生している。その最高点が湯船山である。
三国・湯船両山稜は、静岡県の小山町北側を山梨、神奈川両県から遮断する障壁を形成している。
この山域は起伏がなだらかな地形で、美しい天然樹林が豊富に残されているうえに、人の訪れが少ないので、深閑とした山道の森林浴をゆったりと味わうのに適している。
難点は、コース直下にある富士スピードウェーのテスト走行と自衛隊演習場の実弾射撃訓練である。 どちらも共に行なわれない恵まれた日は少ないようだ。雑音が気になる方は、イヤホーンで音楽やラジオを聞きながら歩くといい。
 普通は、三国山稜~山中湖、明神峠~湯船山~不老山と云うように、それぞれ別個に歩かれていて、その場合は山中でゆっくりと過ごす余裕のある計画を立てることができるのだが、 今回私は欲張って一日で両方を繋いで歩いたので、いささか時間に追われるハイキングとなった。慾はほどほどがいいようだ。

この山域で特筆すべきことに、ユニークな道標が挙げられる。
標柱の頭に使い古した鍋を被せ、稜線を表す造形がなされた標識板が取り付けられ、それに色とりどりのペンキで描かれた案内がとても楽しい。 単に楽しいだけでなく付近の情報が満載されていて大変ありがたい。今ではこの山域の名物となっているようだ。(冒頭写真)
駿河小山にお住まいの岩田さん手作りによるもので、氏は道標だけでなく登山道の整備にも尽力されている。
今回私は山中で、スコップをザックに背負った岩田さんに偶然お会いした。岩田翁は喜寿を超えた歳のはずだが、益々意気盛んとお見受けした。 いつまでもお元気でご活躍されることを祈らずにはいられない。



三 国 山 稜


穏やかな稜線を描く三国山稜、アザミ平付近にて


御殿場駅から河口湖行き富士急バスの始発8:10 に乗る。 乗客はゴルフ場関係者らしき数人、途中で乗り降りした地元の方数人、富士急ハイランドへ向かう広東語を話す香港(たぶん)の若者達数人、そして登山客は私だけであった。 篭坂峠で降りたのも私一人だけ、40分ほどの乗車時間だ。空は雲が多いものの、高原の爽やかな空気が歩くのに適した陽気だ。
バス道路を横断してバス停の反対側の取り付け道路を標識に従い少し登り、小さな霊園に入る。霊園の入り口に5~6台分の駐車場がある。霊園は直ぐに抜けて舗装道が終わり、山道となった。入り口には熊注意の古い標識がさりげなく掲げられていた。

道は2人が並んで歩ける広さで、踏み音がサクッサクッと、とても心地よい。足元はスコリア主体に腐植土が少し混合した土壌で、サラサラとして靴に付着せず、しかも適度なクッションが効いて、実に歩き易い。 ゴロゴロした砂利石が全く無いので足元に神経を使う必要がない。この好ましい状況は三国山まで続いた。
新緑の潅木に囲まれた道を緩やかに上り、一部溝状に抉られたヶ所を通過し、35分ほどでアザミ平と呼ばれる開放的な原に出る。富士山は雲に隠れていたが左右の見晴しがとてもいい。 地名の由来であるアザミは案外少ないが、白や黄色の小さな花がたくさん咲いていた。この辺りは四季折々の花畑となるようだ。 序盤からコースのハイライトを通過するようでもったいない、此処はもっと後ろにとっておきたい気分である。
アザミ平から再び緩やかに上り、35分ほどで本コース最高点の大洞山1384mに到着した。樹林に囲まれて展望はないが涼しげな場所である。少し休憩した。

この先三国山まで植栽が少し変化し、育ったブナが多くなる。楢木山は気付かずに通過し、ヅナ坂峠付近でバイケイソウの群生を見て、一登りで三国山山頂に着いた。
篭坂峠から2時間余りだ。ここも樹木に覆われ視界が悪い。しかしベンチが置かれているので少し休んだ。
ここから左に折れ三国峠を経て山中湖へ下るのがメインルートだが、物足らない人も多いのだろう、眺望が開ける鉄砲木の頭までさらに上がり、そこから山中湖へ下山するハイカーが多いようだ。
私は湯船山コースへ向かうので明神峠方向へ直進した。



湯 船 山


三国山東側山腹展望地より湯船山を望む、右奥に薄く不老山


三国山山頂で一般ルートから別れ、明神峠へ急降下する。こちらも良く踏まれている道だが、スコリアが減って腐植土主体となるので滑りやすくなった。 中腹には高圧電線鉄塔が建つ場所があり周囲を一望できる好展望地だ、が、高圧電線が目障りなのは仕方ない。
20分余りで車道へ降り立った。一級国道並みの立派すぎる2車線舗装道路だ。だが通行車両はない。自然を壊してまで、これほど広く切り開く必要があったのか、疑問に思わざるを得ない道だった。
その後私は明神峠まで車道を下ったが、左側山腹に車道に沿うようにして山道が通じていた。時間的には幾分車道が早そうだが気分的にはそちらを歩きたい。私はその存在に暫く気づかずにいた。
車道の峠は、峠らしくもないつまらない場所である。世附川へ下る林道が分岐しているが、ゲートで車両は通行止めされていた。
標識に従い湯船山へ向かう登山道を僅か登るとベンチが置かれた休憩地がある。駿河小山の街、その後ろに箱根山の眺めがいい。私はそこで軽く食事をした。

湯船山へは高低差およそ150mの上りである。山頂直下では勾配がきつくなるものの、総じて緩やかな道が続く。登り始めて直ぐに高圧線鉄塔を通過する。 小山側麓に大規模な東電東富士変電所があり、そこへ導かれる高圧電線が複数経路この山域に通じている。景観を損ね煩い存在だが、これは仕方ない。
この鉄塔付近にサンショウバラの大きく育った木があると云う、例の標識の情報だ。花は梅雨の時期に咲くようである。
登山道は明瞭で、雑木林の中を縫って行く。展望には恵まれないが、自然のままの雑木林がとても懐かしい。所々でオレンジ色のヤマツツジが咲いていた。
 
湯船山山頂は東西に細長い草原状で、ここも展望には恵まれない。壊れかけたベンチがあり、この先此処より高い場所はないので安堵して少し休むことにした。
再びなだらかに降りて、少し登り返して白クラの頭、その後急降下し平坦になると右側が開け、沼津や伊豆の山が見渡せる場所に出る。そこから峰坂峠は近い。
峠には苔むしたコンクリート製のテーブルとベンチが置かれている。尾根通しに直進すると世附峠へ、左へ下ると世附川源流部へ、右は林道を経て湯船の集落へ下ることができる。
この先の世附峠もそうだが、この峠は近年ハイカー用に切り開かれたものではない。生活の為に人々が往来する峠として、古来より存在していたようだ。一体どんな人が何の為にこんな山奥を行き来していたのだろうか。

峰坂峠を後にして悪沢峠(アシザワトウゲ)を経て20分、僅かに登り“樹下の二人”と呼ばれる小ピークに着いた。
この場所は地名から連想する高村光太郎や安達太良山とは何の因縁もなく、例の道標の製作者が名付け親らしい。ひらめきと独断で名付けたようだが、違和感のない素晴らしい場所である。 もともと名無しの場所、この地名がいずれ定着していくことだろう。
山頂は草原状で木が疎らな為に360度の大展望、特に北側が素晴らしく、普段お目にかからない西丹沢を全望する。ベンチも数脚置かれているので休憩の最適地である。 山頂直下には大変珍しい野生のサンショウバラの群生地があり梅雨時が花の時期のようだが、当日はまだ早いようで一輪も見ることができなかった。
前半のハイライトがアザミ平なら、後半のハイライトは此処“樹下の二人”だった。
樹下の二人へは世附峠から僅か10分の登りだ。不老山へ行く際には是非寄り道することをお勧めいたします。

私は此処で男性年配者が引率する5~6人の女性グループ一行と出会った。男はさかんになにやら説明している。そして、そのザックには大形のスコップが納められていた。
私は直感した。挨拶を交わして、ズバリ
「あなたはこの辺りの道標の製作者ではありませんか?」と、訊ねた。
たちまち一行は凍りついてしまい、警戒心を露にした。
名物道標のことを苦々しく思っている行政関係者が少なからずいるのだ。一行は私を彼らの一派と勘違いしたに相違ない。 私はその場の空気を即座に察知した。私の挨拶は唐突に過ぎたのだ。すぐに言葉を変えた。
「篭坂峠から延々とこの愉快な看板に導かれてここまでまいりました」凍りついた空気か解けていくのがわかった。
「此処はいい場所ですね、標識で説明されている地名通りです」
「間違ったらごめんなさい、先輩は標識の製作者ではありませんか?」改めて私は訊ねた。
座はたちまち和み、岩田翁本人であることを告げてくれた。私は改めて翁に敬意を表し、その後世附峠で一行に加わって解説を受けた。山のこと、林道のこと、植物のこと、実に知識豊富でこの山域の生き字引のような方だった。

樹下の二人より湯船山を振り返る、右奥に薄く三国山


世附峠で一行と別れた私は林道を(上部は一般車通行禁止)一人で淡々と下った。駿河小山駅まで正味2時間の長丁場である。下山時の林道歩きはよくあることだが、ここは少々長すぎる。
不老滝と名付けられた落差20mを超える立派な滝で疲れを癒し、何とか林道中間点の山口橋を過ぎ、柳島の集落に入った。 道の左は既に田植えが済んだ水田で蛙がさかんに鳴いている。右は裕福そうな農家が並ぶ。道路脇は何処もお花畑だ。 最も心和んだことは、この先行き交った人々、老若男女多くの人々、特に下校途中の学童全員が、見ず知らずの登山者である私に挨拶してくれたことだった。そうなると、こちらも疲れた顔はできない、明るく挨拶を返すうちに疲れはいつのまにか忘れていた。

駿河小山の駅には16:55に着いた。駅前の観光案内所のベンチで清涼飲料を飲み一息入れていたら、上り電車が発車して行った。間に合う時間だったが、私は帰りの御殿場線時刻は調べていなかったのだ。 私は寂しいホームのベンチで、次の上り電車が来るまで1時間近く一人でぼんやりしていた。    2006/06/06 記

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