HOME コース;室堂~雷鳥沢~奥大日岳~七福園~大日山荘(泊)~大日平~称名滝 所要時間;一日目~6時間、二日目~4時間半 大日岳、中大日岳、奥大日岳の大日三山を起こす大日尾根は、弥陀ケ原・室堂平を取り巻く北アルプス高峰群にあっては比較的標高は低いが、海抜数拾メートルの富山平野から一気に屹立し、2.600mを超す堂々とした山容を見せている。 かつては、この山塊は行者の修行ルートであり、今もその痕跡がみられるが、多くの登山者は室堂から立山三山・剱岳・黒部峡谷・五色原などの人気コースへ向かい、今ではこのルートはあまり歩かれていない。 その為に荒らされることなく高山の草花が豊富である。登山道もあまり人手が加えられておらず、奥大日岳~大日岳間はアップダウンが多い複雑な地形で、ルートを示すものは岩や転石に塗られた赤ペンキの矢印のみ、というケ所も多い。 晴天時には変化に富み素晴らしいコースなのだろうに、何故か人気が薄い。 地鉄富山駅を始発で発ち、室堂には9:00少し前に到着したが、雷鳥沢ヒュッテで雨宿りし、雷鳥沢テント場を10:00と、遅めの出発となってしまった。小雨が時折パラつき風が強く、視界も悪い。 昼食休憩した奥大日岳まではいくつかのピークがあるが、登山道はピークを巻くように山腹に付けられていて、比較的容易にたどり着くことができた。山頂には室堂からの往復の登山者が数人いた。展望は360°真っ白。幸い雨は予報通り上がっていた。 大日岳への縦走路はガレ場の急下降で始まった。 その先人影なく踏み跡も薄くなり、自分にとって未知の高山ルート、白闇の中を単独で行動することの心細さ。 途中後悔したとき時は既に遅く、ヤセ尾根のガレを下り、梯子の直下降を通過した後で、今更引き返すこともままならない位置まで来てしまっていた。 再び昇りに転じ、やがて行く手の片側が切れ落ち、反対側は岩壁に塞がれ、進路を失った。 見上げると上が霞む切り立った岩壁に、なんと上に向かって赤ペンキの矢印が塗られていた。 他にルートなく、10kgを越える荷を背負い、僅かなホールドを頼りに3点支持で、息つくこともかなわずにひたすら攀じ上がるしかなかった。滑落すれば奈落の底、称名川谷底へまっ逆さま。 視界が利かないことがこの場合は幸いしたが。かなり追い詰められたと思った。 攀じ上がった岩壁の上はハイマツの痩せ尾根で、追い討ちをかけるようにガサガサとしたのでひどく驚いたら、3羽の雷鳥親子が足元に現れた。愛らしい鳥である。どうにか気持ちが落ち着いた。 あわてて撮影した為に写真はブレて失敗していた。この鳥は人を怖がる様子がないので、落ち着いて撮影すればよかったと、後悔した。 行者の修練場であった巨岩がゴロゴロしている場所(七福園)を過ぎると、ようやく勾配の緩い整備された歩きやすい道に変わる。中大日岳のピークを過ぎ、少し下ると山小屋が突然現れた。途中の焦りからか、予定より早めの3時少し前に着いた。 大日岳山頂へはここから20分ほどだが、視界がないので断念した。 受付と同時に缶ビールを注文し、立て続けに2本飲んでしまった。 小屋の宿泊客は中年夫婦2組・男性単独客自分も含め3名・中年女性3人グループ・中年男性6人グループの計16名であった。 遅く到着した中年夫婦は'午前中に剱岳を往復して来て疲れた'と信じ難いことを言う。他方の中年夫婦は立山から縦走してきたと言う。単独男性の一人は、明日剱に登り黒部川へ下ると言う。自分以外はいずれも山の達人のように思えた。山の話題は聞き手側に徹することにした。 夕食は5時からで、献立は鮭のカルパッチョ風をメインに数品。最近の山小屋の食事は悪くない。 比較的すいていたので、ゆっくりと和やかにとることができた。三本目のビールを飲んだ。マイナールートの小さな山小屋は居心地が良い。 食後ガスが一時切れ、小屋の外の広場からは夕暮れの剱岳をはじめとした周囲の山々、眼下の富山平野、その先の富山湾を見わたすことができた。緑、青、茶などの周囲の山々の色彩が徐々に薄れ紫の単一色に、そして剱岳が一瞬朱に染まり、やがて闇が訪れ遠く平地に灯りがともる。皆言葉がでない。 感激!!先ほどまでの後悔が消し飛んでしまった。 小屋の食堂にランプが灯り、団体客が談笑していたが、単独の自分は寝床でゥイスキーを飲み、8時前に寝てしまった。明けて4時半起床、5時半朝食。外は相変わらずガスで視界が悪い。今日は海抜2500mから1000mまでおよそ1500m降りなければならない。 6時過ぎに出発。1時間ほど下るとガスが切れ、箱庭のような弥陀ケ原、その先に薬師岳が大きく望まれ、やがて大日平小屋の赤い屋根がはるか下方に見えてくる。だがなかなか近づいてこない。 潅木帯の中、沢沿いの道は大きな岩だらけで歩きにくい。 小屋まで下りの連続で2時間強費し、ようやくたどり着いた。 大日平と呼ばれる気持ちの良い平原を過ぎると、いよいよ最後の急坂である。 足がフラつきだした自分にとって、本行程中最大の難関に感じられた。 称名川に深く削られた渓谷の崖を500mほども一気に下るのである。 標準コースタイムで1時間強のところを2時間近く費やした。 転落の恐怖と戦いつつ、ヘッピリ腰で降りている自分のなさけない姿を想像し、再び自分にとっては無謀な、この山行を後悔したのであった。バス停方向とは逆に歩かなければならない称名ノ滝の見学は当然のごとく省略した。 たいして待つことなく、11:05のバスで立山駅へ向かうことができた。 小屋を出た頃は寒風にあおられてウィンドブレーカーを羽織ったほどだったが、Tシャツ一枚でも暑くなっていた。 |